UTokyo bicycle racing team

全日本学生選手権チームTT レポート
秋田の空はこの日は曇り、昼には気温がかなり上がって暑さと補給に十分に注意する必要があった。高木さんと東さんとマイケル、僕は首に冷えピタ貼ってスタートラインにつく。

スタートラインにつくまでに7割の勝負は決まっていたと思われる。

基本的な戦略が決まり、試合までに4人のうち1人でも体調不良を出さない配慮と運、機材の入念なテスト、エアロダイナミクス、ウォーミングアップ、さらに気合。必勝のサポート・計時体制、チームカーの運営

「オーライ、オーライ!」
「少しきつい」「次から30秒でいきましょう」「速い!速い!」「大丈夫?」

試合中には選手同士のコミュニケーションがものをいった。

そして今回はリーダーとしてチームの判断を統率する必要があった。風向きが変わったときのローテーション向き変更指示、ローテーションミスの指摘、引き方に気を配り、なによりペースを設定し、脱落した選手をどうするか。現場では時間をかけた判断は行うことができない。決断力が必要だった。

そして2時間1分の東大チーム総合作品はここに完成した!

これまでのデータ分析と練習からローテーションに伴うロスは、荒川練の持ち時間の中でできるだけ削減した。穏やかに列に沿うようにはり付きながら下がり、そっとドラフティングゾーンに着地する。足にパルス的な刺激を極力与えないように配慮が必要。個人個人のエアロダイナミクスはヨーロッパの選手達のポジションを題材に研究を行いつつ、柿木ご兄弟に相談してベストを模索してきた。

そして今回も肝になった足の差を吸収する超傾斜配分。西薗2分、マイケル1分半、高木ー東10秒という恐ろしい配分で、2周回が終わるまでひたひたと進む。引いている時間に自分の正気をやや疑う。そして、1周目終わりには早稲田と中央が到着してきたが、正気でないのはあいつらだと確信して山のごとく動じず。僕らの最適解を信じるのみ。

リーダーがぐらつくと周りに伝播するから

しだいに各大学混戦場外大乱闘の様相を呈してくる2周目へ。対向車線まで吹っ飛ぶ落車を目撃するが東さんは見ていなかったという。どこに目をつけていたのですか、東さん。ここまでに一本目のドリンクをほぼ飲みきることに成功した。これで補給関係はほぼ成功だ。周囲にもよくドリンクを取るように促す。

そのころ徐々に機関車マイケルの足を疲労がとらえ始め、スタート前に十分打ち合わせた通りすぐさま配分を減らす。無理はしない。東さんと高木さんの調子をうかがいつつ、配分を決める。高木さんの配分を向上、僕はこれ以上増やすのは不可能。

中央が見える位置にいるのは変わらず。早稲田が1人パンクを出して失速、加えてやはりここまでの無理がたたったようだ。明らかに頭がおかしいのは(そして素晴らしいのは)中央だ。早稲田は罠にはまったようだった。ここから1分以上差を戻せばまだ早稲田の上にいける。(早稲田が東大の一分後発走チーム)

3周目往路にかかる。マイケルはますますきつそうになってくるが、ここが勝負どころ。追い風を利用してそろりとペースを引き上げる。じわりと僕も疲労にとらえられつつある。そしてついにマイケルが離脱!高木さんがゴールまで引けるだろうことを見積もって思い切って待たなかった。最大の決断の瞬間。

3周目復路、満身創痍で勝負。引ける時間が1分ちょっとになる。失速した自分に焦りが生じて、無理にペースを上げて長引きしようとしてしまうが、メーターをみてすぐに我に返り高木さんが万全の状態であることを確認して半分の割合を託す。高木さん強し!東さんは昨年の悪夢を振り払うかのごとき気迫で付き位置をとり、いなくなっていないことを示すために前で2人が交代するたびにオーライ、オーライと念仏のごとく唱えて食らいついていた。自分もつらい、つらいが他もつらい。前方には中央も同じように勢いを失っているのがわかる。しかし彼らは勝利をひたすら信じてペダリングを続けていた。崩壊はなかった。恐るべし。そして僕たちも僕たちなりの勝利を勝ち取るべく速度を緩めなかった。中央大の監督が選手にメガホンで応援を叫びまくっていたが、僕らはそれを自分たちに向けられているものと無理やり解釈して心を奮い立たす!

フィニッシュ間際、叫ぶ。なにを叫んだかは覚えていないが、それをきっかけとして、はじかれたように最後に残されたダンシングのための筋肉で3人がラストスパート。そしてゴールラインを越えた。タイムが2時間1分フラット前後であることを確認して成功を確信する。快感がやばい。脳内でドーパミンが全開。

重大な仕事をやりきった。これで東さんと高木さんとマイケルを無事に安心して卒業させられる。そして脱力と疲労のあまり明日の個人TTに暗澹たる気分になったのはいうまでもない。監督、岩崎さん、サポートの部員みんな、そして選手のみんなへ本当にありがとう。そして切り札柿木ご兄弟のコーチングはてきめんでした。

ITTに続く。